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俺は妙な戸惑いに包まれ、言葉を発することができなかった。
それをどう感じたのか、森崎は溜め息をつき、続けた。
「あたしね、評論家になりたいって5年生の時に決めたの。で、まだ諦めてない。
初めは冗談だと思ってた周りの人間もわかってくれたわ。
あたしが、本気ってこと」
俺はただ森崎を見つめる。
心の内は空っぽ。何を思って見つめているのか、俺にもわからない。
尊敬? 嫉妬? 好意? 敵意?
「どう? 古谷の例と変わらないわよ」
「何が言いたい?」
見つめるというよりも、睨んでいたのかもしれない。
睨むのに尊敬も好意もあるわけがない。あるのは嫉妬か。敵意か。
「挫折しても乗り越える。夢を持つのが駄目じゃないってこと、あたしが証明してあげる」
森崎は力強く言った。自信に満ち溢れた、高揚とした声で。
自信があるのは当たり前か。なかったらやってないもんな。
俺は苦笑いを浮かべ、少しイタズラっぽく言ってみる。
「別に、お前はまだ挫折なんかしてないだろ?」
これで今まで劣勢と感じていた俺も、少しは調子を取り戻せたかな。
「はは、ちっちゃい挫折なら何回か経験してるけどね」
森崎は、イタズラっぽく笑った。
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