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「ねぇ」
終礼が終わり、当然まだ部活はやっていないので、必然的に皆は温かい家に帰る。
教室に残っているのは俺とポニーテールをぶら下げた女が一人。
来いと言ってきたくせに、自分からやって来やがった。
脳内ソングは貞子。我ながら素晴らしいセンスだ。
「ねぇ」に返す言葉を知らない俺は、彼女と目を合わせるように顔を上げる。
相変わらずのくしゃくしゃなポニーテール。なに、こう見ると良く似合ってるじゃないか。
「あんたさ、本当に夢がないの?」
しばらく目を合わせた後、彼女は急に切り出した。
そして自然を装うようにして目を逸らし、窓の外を眺める。
「あぁ、ないな」
俺も彼女が眺める先を見た。
昼。まばらに雲が漂い、青い空が目に染みる。
俺のテンションはこの大空と真逆だな、と苦笑いさえ浮かぶ。
「本当に? 全くないの? かけらすらも?」
彼女は机に手を着いて言った。
なんだ、何をこいつは本気になってるんだ?
夢がなくたって別に構わないだろうが。お前には関係ないはずだろう?
「何が言いたい?」
それが運の尽きだったことは言うまでもない。
俺自身、何がやりたかったのかもわからない。そんな思いが、この言葉を選んだのかもしれない。
もしかしたら彼女が見つけてくれると、変な期待を寄せたのかもしれない。
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