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悠一似の男は、私を、もう一度、確認した。
彼は、左手首を、右手で掴み、凜と通る声で、こう言った。
「…クロノスの名の元に、【隔離】」
そう言った瞬間に、周りの空気が、変わった。
「…お前、何をした?」
男の耳に、さっきまで、聞こえていた、港一杯に広がっていた喧騒が、ピタッと、聞こえなくなった…。
その上、体の周りの空気が、重みをました様な感じがする。
「空間隔離…俺達のいる場所だけ、さっきまでいた場所とは、存在を、切り離した。
俺に、刃を向けたこと、後悔するよ、お兄さん。」
次の瞬間、離れた場所に、いたはずの悠一似の男は、男の真横にいて、長い刀の刃を、男の喉元に突き付けていた。
耳元で、まるで、愛を囁くかのように、告げる。
「…ねっ、こうなったら、手出しできないでしょ。」
「うるさい!」
「負け惜しみだね…今日はさ、仕方ないから、見逃してやるよ。
ただし、帰ったら、お前のボスに、こう伝えろ。
『時の石に、手を出して、無事にすんだものは、いない。…さっさと、元の場所に、石を戻せ。』とな。」
悠一似の男は、一瞬前とは、違う殺気に満ちた物言いをした。
男は、首すじと背中に、冷たいものを、感じていた…。
男は、焦っていた。
体は動かせないし、こんな刀など、いつもなら、弾き返して、返り討ちにしてやるのに…。
「それと、彼女は、返してもらう…。じゃあな。」
悠一似の男は、私を、抱え上げ男の前から、消えていく。
男は、止めることも、追うことも、出来なかった…。
まるで、さっきまでのことが、嘘の様に、不意に動けるようになった体を、男は、確認しながら、周りを探ったが、もう、誰も、いなかった。
「くそっ!覚えてろよ!」
地団駄踏みながら、悔しがる、その耳には、港の喧騒が、戻ってきていた…。
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