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「ついてないな」
既に内容を知っていた齋藤が、全て読み終わって溜息をつく沖田に声を掛けた。
「ははは。全くですよ。朝弱いのになぁ」
沖田は愚痴をこぼしながら、用済みになった半紙で鶴を折り始め、もう一度深い溜息をつく。
「でも、これでようやっとこの生活から開放されますね」
沈んだ沖田の気分を盛り上げようと、山崎が嬉しそうに窓の外を覗きながら声を躍らせた。
「あ!そういえばそうですね!!
これでやっとあの人も動きにくい着物から解放されるのか」
「そうだな。あんなじゃじゃ馬がよくここまで耐えたものだ」
齋藤は、いつも楓と枡屋が使っている『柏木』の一室を遠い目で見つめる。
その齋藤の姿に山崎と沖田は顔を見合わせて不思議そうな顔をしていた。
「常々思っていたのですが…齋藤先生は猪を随分と買っていらっしゃいますね?」
「私もそう思います」
二人はほぼ同時に齋藤に視線を向けた。当の齋藤は、山崎と沖田の指摘に一瞬両眉をピクリと痙攣させ、左手で顎を擦りながら何か考え事をしている。
「…そうか?」
「「そうです」」
畳み掛けるような素早い返答に齋藤は小さく唸りながら、今度は天井を見上げた。
二人は次に出る齋藤の言葉に何かおもしろい要素があるはずだと勝手に期待して熱い視線を送る。
そんな二人に全く気づく様子もなく、齋藤は、ぱっと顎にかけていた手を離して腕組みをした。
「確かに。彼女の剣の腕前には正直驚かされている。それに、任務とあれば渋々だが応じて必ず結果を残す。
俺はその姿勢が嫌いではない」
要するに齋藤は楓を買っているという事になる。
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