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壱章:全ての始まり
「ふぅ。やっと消えたな」
「何が原因かわかったのか?」
「いや、それが今組長と伍長が現場にいた不審な浪人を追跡中らしい」
――京都・松原通り木屋町
浅葱色の特徴的な羽織を纏った男たちが十人程一点に集まっていた。
皆一様に桶を持ち、袴の裾は水でぐっしょりと濡れている。
「とりあえずこれで他に燃え移ることはないだろう。けが人はいたのか?」
「いませんでした。幸い昼時を過ぎていたので、店にはあまり人がいなかったようです」
「まぁ、不幸中の幸いってやつだな」
男たちが立っている目の前には、真っ黒に炭化してしまった柱や家具が無残に折り重なっていた。
事は半刻前に遡る。
いつものように見回りに出ていた新撰組の三番隊の隊士らが、一軒の家屋から黒い煙が出ているのを発見した。すぐさま現場へ駆けつけると、そこには火の手が上がっていた。町人らと協力してすぐに火は消されたが、和菓子屋だったその場所は現在の無残な姿となってしまったのだ。
「組長たちは大丈夫だろうか?」
一人の新撰組隊士がまだ煙の立ち上る焼け焦げた家屋を見ながらポツリと呟く。
「大丈夫だろ?だって追っ手はあの齋藤先生だぜ?!しかし犯人も運が悪いよな~」
「そんなことより、俺たちは早く屯所に戻って報告しなくては!」
「よし、引き上げよう!」
その声を合図に、消火活動に当たった隊士たちは、野次馬の間をすり抜けながら早足で壬生へ向かった。
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