壱拾章:微動

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「…それがわからんのです」 痛いところを突く沖田の質問に、山崎が更に深く俯いて落ち込む。 監察にとって一番あってはならない事。それは、一片の情報も持ち帰れない事だ。人間とは、来歴を辿っていけば、必ず何かの情報が掴めるはずなのだ。 だが、その常識を意図も簡単に覆したのは他でもない、赤城楓であった。 「どう頑張ってもあいつの正体が掴めないんです。 訛りがある事から、大坂や尾張、紀伊、大和なども回ってみましたが、立ち寄った形跡すら見つかりませんでした」 「じゃあ…一体何処から…?」 沖田は、今までの楓との会話を思い出しても、彼女自身に関する話を聞いた記憶がない事に気がついた。 (あの人の事を聞くどころか、私は自分の事ばかり話していたじゃないか…) 額に手を当てて、自分の非力さと楓への依存を恥じる沖田。 楓を“女”として扱わないと口で言っていても、やはり心の奥底では“女”と認識していた。 (“いざとなったら私が…”なんて思っていたけど、結局助けられていたのは私の方じゃないか) 沖田は、自分の女々しさと脆弱な心に情けなさを感じた。 「赤城が自分の事を自ら話さないという事は、言いたくないのであろう。 俺たちがどうこう考えていても致し方あるまい」 「せやな。正体不明でも、新撰組に牙を剥かない限りは無害と考えてええっちゅーことですね」 「そうだろうな」 齋藤と山崎は、再び寝転がって軽く伸びをした。 「…あと、七日ですね」 沖田は、完成した鶴を窓の縁に置き、四角く切り取られた空を見ながら、静か過ぎる町に胸騒ぎを覚えていた。
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