#01

3/10
前へ
/427ページ
次へ
黒江はそそくさとケーキの箱に手を伸ばし、 開く。 「きゃーーー!」 またもや歓喜。 「ならんでもならんでも売り切れだったのに!どーしたの?」 実はねーと笑う司。 「今日、お得意様のところに杉田課長といったんだけどー.... そこの方にいただいたのー!ほんとはあたしと杉田課長の分なんだけど、課長、デザートは別にあるからとかなんとか。.... ま、譲ってくれたからさ、食べようよ。」 「うれしぃーありがとぉーー!」 黒江はもう、目の前の輝かしいモノに体の五感全てを奪われていた。 憧れのチーズスフレだぁー プラスチック製のスプーンをとりだし、 「「いただきまーす!」」 二人でいそいそとケーキにスプーンを差し込む。 口にいれ、その甘酸っぱさとふわふわで、とろける舌触りに、 「....!!!おいしーーー!!!」 甘く、美味しい一時は一瞬にしてさるもので。 黒江の名残惜しそうなスプーンはすでに欠片も残されていないケーキのラベルの上をいったり来たり。 「あーん、もっと食べたーーい。」 司のスプーンは自身の口にくわえられたまま。 「今回は特別だからねー。次はもうないかも.... 。」 「えーーー!こんな美味しいの食べちゃったらもう忘れらんないよーーー。」 美味しいものは、一時は幸せになれるが、それが続かないとなると毒になってしまう。 チーズケーキ好物なんだよー うーっと黒江はすぐおとずれた悲しみに浸る。 「ちょっと、そんなすぐに悲しまないでよ!美味しさにひたってよ!今は!」 ばしんと黒江の肩をひっぱたく 「いった。.... だってー美味しすぎてぇー」 「はいはい、じゃ、も、そろそろ帰ろうか。」 食べたゴミをすて、デスクの上にある私物をまとめる。
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加