君の風情と僕の色情[AK]

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「あっ!花火、始まったー」 危うい程の静寂の支配を解いたのは、腹に響く重低音と閃光。 夏の空に一瞬だけ咲き誇り、消えていく定めを背負う花火。 「うわー…、綺麗」 それを見詰めるカズヤが、光に照らされては闇に戻るその横顔が。 余りにも綺麗で。何故だか、花火と同じように儚い存在に思えて。 「っ…じ、ん?どしたの?」 咄嗟に抱き締めれば、こてんと小首を傾げて不思議そうにされる。 見上げてくる瞳は、いつも通りにあどけなさを残しているのに。 かき氷のせいで、熟れた果実のように赤く、濡れた唇は妖艶。 「カズヤ。どこにも、行くなよ?」 引き寄せられたそこは、甘いイチゴの味がするのに。 「っ……ん、はぁ。変なじん」 花火を虹彩に写し、くすりと笑うカズヤは酷く大人びて見えた。 意識はしていないだろうが、今の今まで二面性を見せて俺を翻弄していたくせに。 本心ではあるが、余計な詮索をさせまいと、発した言葉に。 「好きだよ、ってこと。愛してるよ」 「え…。あ、ありがと」 月明かりでも分かる程、カズヤは頬を赤らめて照れる。 なに、その反応。今までだって、散々好き好き言ってきたのに? 「えへへ。初めて、愛してる…って言われちゃった」 へにゃっと眦を下げて、十代の初な少女のような事を言った後。 屋台で買った物を、胸が一杯で食べられないから持って帰るとまとめ出す。 ……こいつは、俺を殺す気なのだろうか。 「あのさ、じぃん?一個、お願いしてもいい?」 キュン死にしかかっていた俺に、申し訳無さそうに切り出すカズヤの足は。 「足、痛い。歩けない…」 見事に靴擦れ…いや、下駄擦れ?を起こしていた。 あー、やっぱりな。 こうなると予想していたから、あえて浴衣は着なかったんだ。 .
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