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「今どこだ?」
息を切らしながら問いかけると、
「まだ何か?」
拒絶している声がする。
「お前、忘れ物。大事なもの忘れてる。どこにいるんだ?」
「忘れ物ですか?結構です。差し上げます」
忘れ物が何かも聞かずに差し上げるって、どれだけ拒絶しているのかと、添田は少しショックを受けた。
「眼鏡だよ。いらないのか?大事なアイテムだろ?」
「あ・・・。はぁ・・・」
志乃は、自分の迂闊さを恨んだ。眼鏡は特に大切なものだった。
眼鏡なんて作ろうと思えばいくらでも作れるが、この眼鏡は志乃にとって特別なものだった。
この眼鏡が志乃を守ってくれていたと言っても過言ではなかった。
自分を押し隠して生きて行くことを決めた時、眼鏡を作りに行った。
たくさんある眼鏡の中で、志乃の表情を1番消し去ってくれたのが、今愛用しているものである。
他のものではダメだった。
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