3

6/9
前へ
/31ページ
次へ
「今どこだ?」 息を切らしながら問いかけると、 「まだ何か?」 拒絶している声がする。 「お前、忘れ物。大事なもの忘れてる。どこにいるんだ?」 「忘れ物ですか?結構です。差し上げます」 忘れ物が何かも聞かずに差し上げるって、どれだけ拒絶しているのかと、添田は少しショックを受けた。 「眼鏡だよ。いらないのか?大事なアイテムだろ?」 「あ・・・。はぁ・・・」 志乃は、自分の迂闊さを恨んだ。眼鏡は特に大切なものだった。 眼鏡なんて作ろうと思えばいくらでも作れるが、この眼鏡は志乃にとって特別なものだった。 この眼鏡が志乃を守ってくれていたと言っても過言ではなかった。 自分を押し隠して生きて行くことを決めた時、眼鏡を作りに行った。 たくさんある眼鏡の中で、志乃の表情を1番消し去ってくれたのが、今愛用しているものである。 他のものではダメだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加