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眼鏡を戻し終えたその手は、もう一度志乃の体を丁寧に包んだ。 何も言わない背中の人。 走って届けてくれたことが分かるその息遣いに、志乃の心の氷が少しだけ溶けて潤った様な感覚になる。 後ろから包まれていた腕が緩み、背中の人が志乃の前に回り込む。 志乃の髪を一撫でし、何も言わずそっと抱き寄せた。 背の高い添田の体は、志乃をすっぽりと包む。 (あ、あたし、限界だったんだ・・・) 添田に抱きしめられ、自分の愚かさに気づく。 このまま、身を任せてしまおうか。 この優しい腕を信じてみようか。 志乃は、巻かれている腕をゆっくりほどく様に解く。 そして、添田を見上げてゆっくり背伸びをした。 志乃の唇が、添田に届く。 添田の下唇を軽く噛んで、唇を離した。
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