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2人を乗せたタクシーは、世田谷にある添田のマンション前で止まった。
玄関から続く廊下の先には、必要最低限に抑えられた生活感のないリビングがある。
「とりあえず、飲み直すか」
志乃の返事も聞かず、添田はウイスキー一式をソファ前のテーブルに置いた。
「で、さっきのキスだけど。抱かれてみる・・・って解釈でいいのかな?」
添田が切れ長の横目でチラッと志乃を見る。
「ふぅ。私らしくなかったですね。すみません。」
「そんなことないよ。俺は嬉しかったけど?」
「確かに、気負ってた部分は否めません。
でも、体の関係を持ったからといって、何も変わらないと思います。
だから、期待はしないでください」
志乃は控え目に、素直な気持ちを伝えた。
どうなろうと、そうやすやすと自分の殻を破く勇気はない。
それでも今夜は、添田が差し出した手や言葉を受け止めてしまった。
それは志乃にとって、僅かながらの進歩なのかもしれない。
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