4

2/7
前へ
/31ページ
次へ
2人を乗せたタクシーは、世田谷にある添田のマンション前で止まった。 玄関から続く廊下の先には、必要最低限に抑えられた生活感のないリビングがある。 「とりあえず、飲み直すか」 志乃の返事も聞かず、添田はウイスキー一式をソファ前のテーブルに置いた。 「で、さっきのキスだけど。抱かれてみる・・・って解釈でいいのかな?」 添田が切れ長の横目でチラッと志乃を見る。 「ふぅ。私らしくなかったですね。すみません。」 「そんなことないよ。俺は嬉しかったけど?」 「確かに、気負ってた部分は否めません。 でも、体の関係を持ったからといって、何も変わらないと思います。 だから、期待はしないでください」 志乃は控え目に、素直な気持ちを伝えた。 どうなろうと、そうやすやすと自分の殻を破く勇気はない。 それでも今夜は、添田が差し出した手や言葉を受け止めてしまった。 それは志乃にとって、僅かながらの進歩なのかもしれない。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加