序章 密音

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――1年前のバレンタイン 世間の男子達が浮かれた煩悩に束縛され、大半の人間が撃沈する恒例の日。 多くの男が期待を秘め、多くの女が期待を裏切るこの日に、俺は一人なんの魅力も感じずにボーッと空を眺めていた。 「……空は、いつ眺めても良い」 期待を裏切らないから。 晴れの日は、色鮮やかな蒼に染まる空を見上げ、鳥たちと戯れる。 曇りの日は、黙々と広がる灰色の空を観察し、世の中に存在する物を連想する。 豪雨の日は、怒りを露わにする雷と、それを増長させる雨音の騒がしさに音色を見出す。 そう、自然は期待を裏切らない。純粋なのだ。 純粋であるが故に、自然は時に凶暴な牙をむき出しにする。 自然が人間に牙を向けるように、人間も自然に牙を向けている。 しかし、人間は自然に牙を向けられると、途端に答えを覆す。 これが食物連鎖であり弱肉強食の世界なのだと、教えている人間であるのに……だ。 ご都合主義とは、本当に言い得て妙では無いかと思う。
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