悪魔の行為

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 そういうガツンとくる言葉に出会いながらも、一度どうしようもなくどん底まで堕ちちまったら、まあ簡単には元に戻れないもんでさ。  人が怖い、外に出られない、それだけでなくあの頃の俺は、意志の力ではどうにもならない『食べたい』って欲求に捕らわれていたんだ。  無茶苦茶に食うんだよ、美味いとか不味いとか、関係ないんだ。とにかく食い物を漁る。『食べる』じゃなかったな、あれは『詰め込む』だろうか。食い方も汚いよ、そして量が半端じゃないんだ。食べたいって欲求を止められないんだ、腹がはちきれそうになりながら、身体はもう限界だって悲鳴をあげているのに、頭の中は『食いたい、食いたい、食いたい』。  もうこれ以上入らないって位に食ったら、吐くんだ。こんな異常な食欲に捕らわれて、汚い欲に負けた自分が赦せなくて、食ったもの全部吐くんだ。喉の奥に無理やり手を突っ込んで、腹の中が空っぽになって涙が滲んで汚物にまみれてぐちゃぐちゃになるまで。自分の犯した罪を吐き出せば、赦されるとでも思っていたんだろうか。  それだけでは終わらないんだ。全部吐いたら、またどうしようもなく食べなくなるんだ。抑えられないんだよ。食べて、吐いて、また食べて、吐いて……一日に何度も何度も。  止めたいのにどうしても止められない。身体に悪いことなんか十分わかっているんだよ、食べ物を買う金だってかなりの金額だ。それが全部トイレに流れていく。そしてこんなことをしているなんなてさ、他人に知られたら『頭おかしいんじゃないか』てきっと軽蔑されることもわかっているんだよ。  もう自分はこのままこの地獄みたいな生活から抜け出して、まともな生活に戻ることは出来ないんじゃないかって、悪夢だったらどんなに良かっただろうね。でも現実なんだ。  狂っているだとか、病気だから治療が必要だとか、きっと『まとも』な奴はそう思うんだろうな。  はっきり言っておくよ。こうなったら病院や薬じゃどうにもならないよ。子供の頃のトラウマや過剰なダイエット、摂食障害の原因は色々といわれているが、きっかけが何であれこの状況に陥ったら救われる道はただひとつ。  どうしようもなくなった俺の脳みそを揺さぶったもうひとつの言葉、精神科の医者でもカウンセラーでもない、偶然に出会った言葉。
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