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「あぁ! やっぱり無し。さっきの無しで!」
一転して、真帆は「無し、無し」と手を振った。
「やっぱり恥ずかしいわ、そういうの」
タコでもここまで赤くはならないというくらい顔を真っ赤にした真帆――こんな彼女も初めてだ。
なんだろう、僕はこの1年間、真帆の何を見てきたのだろうか。
陰気なやつだとばかり思っていたのに、こんなに“普通”な女の子じゃないか。
何故か僕は落ち着いていた。冷静というより、思考がよそを向いている気がしないでもないが……
だからなのか、不意に眞柴のセリフを思い出した。
――人生とは自分が主人公の映画のようなもの――その後は聞きそびれてしまったが、僕なりの解釈がある。
映画の主人公はその人生が劇的なのではなく、日常を日常と見ないのだ。
真帆の意外な一面を見たことだって(ある意味、事件だが……)言わば、日常生活の中の一場面にすぎないだろう。
ならば、何も起こらない“日常”などない。常に何か起こっているのだから。
それはつまり、日常は映画のように劇的ということなのだろう。
眞柴は、おそらく
「人生ほど劇的な映画はないということさ」
と、続けるに違いない。
そんな気がした。
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