タイトルのない日常

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「ねえ、聞いてる?」 真帆はジュースの缶を両手で持ったまま、首を傾げた。 僕が自分の世界に旅立っていたから、不審がったのだろう。 「ああ、聞いてるよ。無し、なんだよな」 「うん。あ、でも、そんなつもりじゃ……」 「いや、打ち解けられただけでも充分さ。映画は、まだ長い」 そう、これから時間をかけていけばいい。 疑問符を浮かべる真帆に笑いかけて、告げた。 「遠藤さんも気を遣ってくれてたんだろ? ありがとう」 少し驚いたように目を見開いた真帆だったが、それからすぐに照れながらも、うなずいた。 こんな“日常”も悪くない。 僕は照れ隠しにジュースを一気に飲み干した。 「さて」 空缶をゴミ箱に投げ入れてから、僕は残酷な一言を突き付ける。 いつか、名で呼び合うような気が置けない仲間になるために―― 「帰って課題の続きだ」 聞いて、真帆は露骨に嫌そうな顔をした。 それがおかしくて、僕は笑ってしまう。 こんな、タイトルもない“映画”に僕は夢中だった。
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