タイトルのない日常

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とりあえず外に出向いてみると、晴れ間の空に、うっすらと虹がかかっていた。 もともと小雨に近かったのだが、雨の程度を問わず、雨上がりには特有の清々しさがある。 澄んだ空気。流水のように冷たい風が心地好い。 「外に出て正解だな。売店の前でせせこましく休憩するのとは大違いだ」 同意を求めて真帆に目をやると、彼女は小さく頷いた。 ただし、相変わらずの無表情だ。感情が欠落しているわけではないのだろうが、とにかく掴み所がない。 「あ、そういえば、ジュースの礼がまだだったね。ありがとう」 「別にいいよ。今度、倍にして返してもらうから」 真帆は、眉ひとつ動かさずに答えた。 冗談のつもりなのか、それとも本気なのか、冷めた横顔からは判断がつかない。 「……冗談なんだけど」 「真顔で言うなよ……というか、意外に、そんな冗談も言えるんだな」 「別に、普段からこんなだよ――っと」 真帆は独り言みたいに呟いて、ぐるりと視線を巡らせた。 「ん、どうした?」 「ううん。座る場所がないなぁと思って……」 「ああ、確かに」 訓練施設のようにルーフがあるならまだしも、雨ざらしにされていた校庭のベンチは軒並み全滅状態だ。腰を掛けられなくもないが、そうするとなると、濡れてもいいという覚悟が――そして、替えのズボンが必要だろう。 そんなことを考えながら、頭ひとつ分ほど上から真帆を見下ろしたのだった。
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