タイトルのない日常

9/12
前へ
/12ページ
次へ
「そんなに、すねるなよ」 「……すねてませんよぉ」 そう言って、そっぽを向く真帆。 見事なふくれっツラだ。普段が普段だけに、そんな真帆は新鮮で――それだけに可愛く思えた。 「悪かった。真帆とマトモに会話したことなかったからな。てっきり」 「『真帆』?」 「え? ……あっ!」 気付いて、思わず狼狽した。 気が緩んでいたのか、つい名前で呼んでしまっていたのだ。 見れば、言葉尻をとらえた真帆の方が目を丸くしている。 なれなれしいと思われたのだろうか。 「……」 「……」 互いに、しばらく口を閉ざす。僕としては何を言っていいかすらも考えつかない。 すると、真帆――いや、遠藤さんは少し照れたように笑った。 「真帆でいいよ。お互いに遠藤で呼び合うのは、なんだか違和感あるしね。私も名前で呼ぶからさ、長太郎」 言って、顔を赤らめる真帆。 今度は僕こと、遠藤長太郎が目を丸くした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加