009

6/35
前へ
/300ページ
次へ
「『宵闇 満月(よいやみ まんげつ)』覚えてる?」 一息つくように、お茶を啜ってから訊ねられる。 忘れる筈が無い。忘れたいと願っても頭から離れない名前。 沙夜を想う度に、ちらつく不快な名前。 「……覚えています」 一言返すのが精いっぱいだった。 僕の心情を汲んでくれたのか、少し申し訳なさそうな顔をする伯母さんだったけど。 「そう、それなら良かった。じゃあ、彼がこの町に来た理由は? 覚えてる?」 続けて、質問を投げかけてくる。 不快な思い出を呼び起こし、彼の言動から答えを導く。 確か――「……沙夜を連れ戻す為?」と僕は記憶を統合し、答えた。 「そう、その通り。彼は沙夜ちゃんを連れ戻す為にやって来た。では、それは何処へ? 沙夜ちゃんの戻るべき場所って何処?」 続けて質問される。 沙夜の戻るべき場所? それは……。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加