孤独と出会い。

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「!!!」 もう何年も動いていない、彼女の表情が不意に激しく変わる。 彼女の澱みきっていた両目に今、この世界に来てから初めて目にする 他者 の姿が映ったのだ。 他者こと190cmはあろう体躯の持ち主が纏うは、艶やかな黒一色に彩られた西洋式甲冑。 彼の腰にあるのは、由来こそ不明なれど洋剣ではなく日本刀。 まるで物干し竿のようにその刀身は長かった。 やがて面当てを通して、彼のものらしい低く落ち着いた声が彼女の耳に届く。 「我が名は騎士ジェノサイレス。 娘よ、我と共に来る覚悟はあるか?」 「ガアアアアアアアアッ!!!」 とうの昔に渇ききってしまっていた喉と口そして舌と唇を全身の力を振り絞って鳴動させ、ジェノサイレスの問い掛けに反応する少女。 澱みきっていた両目からとうの昔に枯れた筈の涙が溢れ、ジェノサイレスが少女に差し出したパピルスに水玉模様を刻む。 やがて彼女がジェノサイレスとの契約の証であるパピルスに、指先を少し噛み切りやがて出た血を以て、どうにか思い出せた自分の名前を記した。 漢字の名前である事から、彼女が漢字使用圏の国で生まれ育ったであろう事が窺える。 するとジェノサイレスはそれを受け取り、くるくると丸め甲冑の中にスッとしまう。 突如現れた漆黒の球状結界に二人が飲み込まれ、その場から煙のように姿を消したのは、それからすぐの事であった。
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