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あの少女が冥土にてジェノサイレスと某かの契約を交わしてから、人間界時間で一ヶ月程が過ぎた。
ここ東京駅では、今時滅多に見ない和服を身に纏い、細長い風呂敷包みを持った小学校高学年位に見える少女が、新幹線改札口の辺りを行ったり来たりしている。
これから旅立つようにも見えるし、誰かを迎えに来ているようにも見えた。
今彼女の懐にある懐中時計の針は、8時を少し回っている。
「参ったなぁ…
発車まであと1時間位しかないのに…」
少し頬を膨らませながら少女…
鈴城梨菜(すずしろ=りな)。
少なくとも恐ろしく広い駅で迷子になりかけている姿は、年相応のものであると言える。
やがてぶつぶつ言っていても始まらないと思ったのか、梨菜は近くを通り掛かった若い駅員に話し掛けるのであった。
「すみません。
超特急燕の乗り場は何番線でしょうか?」
「ち、超特急燕!?」
若い駅員が一瞬心の中で
(この子気合い入りすぎの鉄子ちゃん!?)
と呟いたのは言うまでもないだろう。
しかし、梨菜はお構い無しに話を続ける。
「はい。
様々な方に尋ねたのですが、どなたも教えて下さらないものですから手荒く困っておりまして…」
梨菜が悩みからほんの少し解放された瞬間、去年鉄道学園を卒業したばかりの若い駅員は、新たな悩みを抱え込もうとしていた。
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