第3章

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「今切った。すごいな。混ぜ方を少し変えるだけで全然違う。お前に教えてもらって、よかったよ」  失敗作と成功作の2つを均等に切り分け、試食という名のおやつを食べる。  見た目からしても、成功作は失敗作のほぼ倍くらいに膨らんでいて、フォークで軽く押すとフワッフワッとしなやかに沈む。  口に入れてもフワフワ感は落ちることなく、優しい甘さを残して喉の奥を通り抜けていった。  歯がいらないほど柔らかいってほどじゃないが、失敗作と食べ比べてみたら違いがよくわかる。  柔らかさを例えるなら、そうだな……田舎の木綿豆腐と高級レストランの絹ごし豆腐かな。高級レストランの絹ごし豆腐なんて、一口たりとも食ったことはないけどな。  元々味は悪くなかったんだし、作り直した時にも材料の調合は変えなかった。あくまで混ぜ方を変えただけなのに、まろやかで上品な味わいになったような気がする。 「うん、とっても美味しいわ。これなら、胸を張ってメニューに載せられるわね」 「あぁ。どうせ詩食品だから、残りは持って帰るといい。これ、バイト代代わりな」  客を待ちながら彼女と話し込んでいるとあっという間に閉店時間になり、成功作の残りを綺麗にラッピングしてミアリに持ち帰らせた。  ヒビキさんも食べると思うが、そのシーンを想像したら笑みがこぼれた。というか、肉体派のファングがフワフワのシフォンケーキを食うって、絵的に面白すぎるだろ。  失敗作の残りは、俺の今日の飯に決まりだな。あぁ、こんなものが飯なんて太る太る…
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