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時刻は十九時をまわり、客たちで賑わっていた。職場の愚痴をネタにし、ヤケ酒を飲む連中。ほろ酔い気分で、うっとりと見つめあうアベック……。
現在の俺の心境は非常に複雑だった。孤独と不安がねっとりまとわりつき、俺を苦しめる。物語が再び進みはじめたことに対し、素直に喜べなかった。
作者のやつ、よりにもよって、〝被害者の視点〟で物語を進めようとしてやがる。つまり、このまま進めば、間違いなく俺は死ぬのである。
まあ、ミステリの手法としては、読者の興味を引くのかもしれない。しかし、だ。当事者の俺からしてみれば、拷問以外のなにものでもない。なんせ、このあと俺はいかにして最期をむかえるか知っている状態にあるにもかかわらず、まったくの無抵抗でそれに従わねばならないのだから。
もう、どうすることもできないのだろうか。このまま従順極まる下僕のように、己の運命を受け入れるしかないのだろうか。
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