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狼
(不思議な子だな。大人びているというか、達観しているというか)
赤ずきん
「どうぞ、かたいかもしれないけど」
狼
「ありがとう。おいしそうなパンだね。
お母さんが作ったの?」
赤ずきん
「いいえ、私が作ったの」
狼
「へえ、器用なんだね」
赤ずきん
「私しかもう作る人はいないから」
狼
「え?
君、家族は?」
赤ずきん
「みんな流行り病で死んじゃったわ。
今日は離れた場所にあるおばあちゃんのお墓参りにいくの」
狼
「……そうなのかい」
赤ずきん
(あぁ、それにしてもこんな奇跡があったなんて!
夢の果実を食べればまたみんなに会えるかもしれないんだ!)
狼
「さあ、そろそろ行こうか。
とってもおいしかったよ、ありがとう」
赤ずきん
(狼さんは食べるのが早いのね。
よっぽどお腹がすいていたんだ)
狼
「そういえば、君の願いはなんだい?」
赤ずきん
「私の願いはまた家族と一緒に暮らすこと。
1人はやっぱり寂しくて」
狼
「奇遇だね、私の願いと一緒だ。
私も家族を流行り病でなくしていて、1人は寂しいと思っていたところさ」
赤ずきん
「そうなの。
……わあ、たくさんの木の実がある。この中に夢の果実があるの?」
狼
「僕は一つ君に謝らなくちゃいけない事がある」
赤ずきん
「なあに?狼さん」
狼
「本当は夢の果実なんてないんだ。全部嘘なんだ」
赤ずきん
「え?」
狼
「本当は君を騙してバスケットの中身をかすめ取ろうとしたんだ。ごめんよ」
赤ずきん
「ああ、そうだったんだ。」
狼
「ごめん」
赤ずきん
(ああ、私はなんてバカなんだろう。
夢の果実、なんてあるわけないのに。
こんな簡単な嘘に騙されるなんて)
狼
「僕はずる賢くて、傲慢で自分勝手で、意地悪で」
赤ずきん
「急にどうしたの?」
狼
「そして、君と同じ独りぼっちだ。」
赤ずきん
「……そうね」
狼
「君はこんな僕をどう思う?」
赤ずきん
「そうね、寂しがり屋でちっぽけで、見栄っぱりで……」
狼
「……そうだよね」
赤ずきん
「私と一緒ね。
私、本当はすごくうれしかったの。独りぼっちじゃないご飯」
狼
「うん」
赤ずきん
「ねぇ、私、いいことおもいついたの。
聞いてくれる?」
狼
「ああ、でもその前に僕のアイディアを聞いてくれるかい?」
赤ずきん
「もちろんよ」
狼
「僕と家族になろうよ」
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