- 壱 話 -

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「…すみません」 「私が出したくて勝手に出したんだから、君が気にする必要はない」 「でも…いえ。ありがとうございます」 あまり謙遜し過ぎるのも良くないとは思いつつも、ついいつもの癖で言ってしまう。 否定することなく素直に受け入れ過ぎるのもどうかと思うが、逆に否定し過ぎるのも考え物で。 勍汰の言う通りこれ以上何も言わず彼の好意を素直に受け取り、机に置かれたカップに手を伸ばした。 「…さて。早速ですまないが二人共、この学園について話は聞いているかい?」 カチャリ、と小さく音を発てながらカップを皿に置いた彼が言う。 「学園の話、ですか?」 「ああ」 「いえ、特には…ただ寮の話は少し母から聞かされました」 「そうか…他には?」 他に聞いた話は?と聞かれ思い当たる節を記憶の中から探ってみるも、これといった話は思い浮かばず。 「そうだ。勍汰は何か聞いていませんか?」 優雅に…とは言えない食べっぷりで出された茶菓子のクッキーを頬張っている勍汰に、尋ねてみる。 まあ、どんな反応が返ってくるかは大体の想像はつくが念のため。 「ん゛?はんむ(何だ)」 「……早く中の物を飲み込んで下さい」 呆れながら暫く食べることを止めさせる。 「…んだよ」 「母さんからこの学園について何か聞いていませんか?」 「話っつってもなー…あ、そういや…」 ふと何かを思い出したのか、面倒臭そうに頭を掻いていた手を止める。 「―――ここってホモが多いって、マジっすか?」 「ああ、また有名な話を持ってきたな…」 「え、あの…どういう意味ですか?」 いきなりの発言に開いた口が塞がらなくなるのを何とか気を付け、空かさずその真意を確かめる。
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