22人が本棚に入れています
本棚に追加
「――カイトぉー、カイトーっ!」
村中に響き渡るような、若い女の声。俺は慌ててシャツの袖口で涙を拭うと、庭から侵入してくる闖入者を睨みつけた。
「シオン。お前はいつになったらちゃんと玄関から入って来るんだよ」
「そんなことより! あのっ……」
よっぽど急いで来たらしい。いつも二つに結んでいる長い黒髪も下ろしたままで、白いワンピースも眩しく息を切らせながら俺に駆け寄ってきた。
茨 紫苑、同い年の腐れ縁ってやつだ。琴を習っているくせに全くしおらしくないし、気は強いし、俺の好みの真逆をいく女子。だが何かと俺につるんできて、俺はもう一人の幼なじみとよく三人で探検に出かけていたことを思い出す。
「あの……! おじいさまが、亡くなったって……」
「ああ。もう聞いて来たのか……早いな」
背後の父さん達が気になって、俺はつっかけのサンダルのまま庭を横切り、玄関へと向かった。シオンは深呼吸をしてから、俺についてくる。
「体調が悪いってお医者様が昨日言ってたでしょ。だから、お見舞いに来ようと思って……そしたら、おばさまに途中で会って」
言葉の途中から、明らかに声が震えているのが伝わる。
全く……こいつはいつもそうだ、ぽんぽんものを言うくせに、やけに涙もろい。女に泣かれるなんて、一番卑怯なことじゃないか。俺は昔からこいつに泣かれるたび、どうしたらいいのか分からなくなっておろおろしてきた。結果、俺は女の涙ほど苦手なものは無い。
「マーヤの方が大人だな。一生懸命するって、母さんを手伝いに行ったぞ」
俺は呆れたような毒気を口調に込めながら、玄関の扉を開いた。ためらいもせずにシオンが中へ入ってくる。こいつには遠慮というものがないのか。
「だからお父さんに村の人達を集めるよう言ってから来たんじゃない! もう、ほんとに高校生にもなって意地悪なんだから」
高校生にもなってぴーぴー泣く方が子供じゃないか。俺はそう言いたい気持ちをぐっと堪え、何も言わないままシオンを引き連れて玄関を進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!