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「マスク持ってくれば良かった……」
予想通り、埃まみれな蔵の中。だが、このわくわく感は悪くない。じいちゃんと些細なことで喧嘩した父さんは、俺が中学に上がる頃仕事の都合もあって町に居を移した。平凡な中学三年間を過ごして来た俺にとって、この蔵探索は小さい頃の俺を思い出させる。
――ぱちんっ。
手探りで電気のスイッチを入れる。体は意外とこういうことを覚えているもんだ。
裸電球に照らされた蔵の中は俺が覚えている以上に物にあふれ返っており、物置として使っているようだった。なぜだか宝物だらけな様子を予想していた俺は、なんだかがっかりしてしまった。
二層式の古い洗濯機の中に、穴のあいた長靴が突っ込まれている。ダイヤルを回すタイプのテレビの上に、空っぽの植木鉢。雑然と、騒然と、秩序無く並ぶ『じいちゃんの物』達が、侵入者である俺を見ている。なんとなくそんな気になるが、決してそれは不快なものではなかった。
シオンには遺品整理などといかにもな理由をくっつけてその場から逃げ出して来たが、別に俺がやることなんて何も無い。蔵の中のものはほとんど生前じいちゃんが整理しているはずだし、事実ここにあるのは使われなくなった日用品ばかりだ。
「……あれ」
そんな中、蔵の奥の棚に、ひとつの違和感を覚える。
それはよく見てみればなんのことはない。――埃を被っていないのだ。
これほど色々なものがありながら、その棚に置いてあったのはひとつの箱だけだった。手のひらほどの、鶴が金糸で織り込まれた布を被るなんとも雅な箱。俺は吸い込まれるように、その箱を手に取った。
意外と、ずっしりと重い。中には何が入っているんだろうか。軽く振ってみると、かたかたと音がした。
じいちゃんの、大切なものだろうか。でも、こんな箱今まで見たことが無い――
「カイトぉ! カイト、どこ行ったの!」
その時、母さんが呼ぶ声がして。俺は現実へと引き戻された。
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