潮騒手記

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 錦木 條寺は幼稚園からの付き合いで、よく二人で色んな所へ行って遊んだ仲だ。俺が町へ行く時も、唯一気がかりだったのはこいつのことだ。三年ぶりに会ったジョージはしかし、小さな頃と変わらない笑みを――ほんの少しの寂しさを交えながら――俺に向けてくれた。 「疲れただろ。少し休めよ、顔がひでぇぞ」  ジョージの家は、寺をやっている。だから葬式など何度も見て来ただろうし、お手の物なのだろう。そういうことは初めての俺はすっかり気負ってしまい、疲れきっていた。夜の通夜まで少し時間もあるだろうし、一休みするくらい許されるだろう。  母さんに一言言って、我が家の家紋が入った提灯に照らされる道路をジョージと並んで歩く。  町ではほとんど見えない星が、ここでは降ってくるかのように視界いっぱいに広がる。そうだ、こんな光景当たり前過ぎて、これが貴重だって言うことに町へ行ってから気付いたんだったな…… 「元気だったか? すっかり都会に染まっちまってよぉ」  そう言って悪戯っぽく笑うジョージは子供の頃の面影を残しながらも、ずいぶん逞しくなったように見える。背もガキの頃は一緒だったはずなのに、今はかなり追い越されてしまっていて。俺は三年という月日の長さを思い知った。 「別に、変わらないよ」 「そういう無駄にクールなとこも変わんねえか。ちょっと安心した」  にやにやと笑うジョージが懐かしくて、俺はようやく少し笑った。ジョージはそれを見て大きく頷くと、俺に缶ジュースを手渡して来た。 「そうそう、肩の力抜いてさ。葬式は送る側の方が体力使うんだから、まだまだヘバるには早いぜ」  ばしっと力強く叩かれる背中。危うくジュースをこぼしかけたじゃないか。だがそんなやり取りも全てが懐かしくて、俺はまた少しだけ笑えた。
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