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――ぽく、ぽく、ぽく。
木魚の音が一定のリズムを伴って部屋に響く。時折混じる、ちーんという鐘の音。
結局俺が用意した座布団では足りなくて、部屋からあぶれた人には廊下に直接正座してもらった。次から次へと焼香を上げる人達に幾度となく頭を下げながら、コロコロとお経とのアンサンブルを奏でる鈴虫の羽音を聞いている。
俺の隣のマーヤは、木魚の音に船をこぎ始めていた。無理も無い、昼間から母さんの後ろをくっついて回って、体力を使い果たしてしまっていた。
そんな小さな妹を膝に乗せながら、俺はじいちゃんの入る棺桶に視線を移す。
『人ってのはな、死んじまうと魚になるんだよ。肉体を捨てて、大海原へと帰って行くんだ。人は、海から来たのだから』
三年前。ばあちゃんの葬式の時に、じいちゃんが火葬場で言った台詞がずっと忘れられなかった。
じいちゃん。海の中に着いたかい。
寒くないかい。冷たくないかい。寂しくは、ないだろうね。他のたくさんの魚がいるのだから。
俺もいつか、あなたの元へ行くのだろう。立派な尾ひれをつけて、海から空を見上げよう。
痛みも、悲しみも、苦しみも、すべて泡になって溶けてしまえばいい。
じいちゃんは、たくさんの人に愛されたんだね。
皆が流す涙が、海へと届くといいな。こんなにも温かな涙に満たされるほど、幸せなことはないだろうから。
『カイト。カイト――』
じいちゃんが呼ぶ声が聞こえる、気がした。
じいちゃん。
俺はもっと、あなたの傍にいたかった――
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