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ーーー目覚めたのは冷たい石床の上だった。ふと意識を取り戻したら、今の状況に陥って居た。
霞み歪んでいる視界から入る情報は大きな人影達が忙しなく通り過ぎて行く光景のみ。人影が俺の上を通り過ぎて消えて行く為、今の俺の状態は横たわっている状態だと自覚する。
ーーー徐々に肉体に感覚が蘇って行く。火が燃え広がるかの様に、微かな感覚が五体を通じて戻ってくる。
「う…っ…」
感覚が蘇って一番最初に帰ってきた感覚は耐えようの無い空腹だった。そして次には指先から心臓へと迸る僅かな、ほんの僅かなな人の温もり・・・肉体の、俺の肉体の存在を示す触覚。霞む視界と途切れそうになる意識、激しい虚脱感と極限の空腹に襲われた俺はグーグーと鳴る腹を押さえながら情けないほどか細く、日の光を随分と長い間浴びていなかったのだろう病的なほど白い肌を、土やら煤、垢に塗れて尚まだ白とわかる白い肌を持つその小枝のような細腕で這うように冷たく、固い石床に手をつく。
上体に力が上手く入らなく、体を半ばまで上げた所に腕の力が緩み、ドサッと石床に顔面から無様に這いつくばる。強かに打ち付けた顔面は熱を持ち、火が出るように痛い。しかし、立たなければ、立ってこの世界を見なければ・・・。倒れた俺は今度は両腕で踏ん張り、上体を持ち上げ背にある壁伝いに手を付き、プルプルと小鹿のごとき足取りで石床の上に弱弱しく立ち上がった。
「あぁぁ・・・・・っ」
ーーーー立ち上がり偶然目にしたのは燦々と、神々しく輝く美しき太陽だった。俺達人間の命の営みを示すかのように力強く輝く太陽に感嘆の声が人知れず漏れた。その光景を見ただけで心持ちか、体に活力が戻った気がする。この俺の立つ薄暗くごみが散乱している汚らしい裏路地にも差し込む暖かな陽光を浴びて俺はこの汚らわしくも綺麗で素晴らしい現世へと再び生を受けた。
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