UNKNOWN

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「ハァッ・・!ハァッ・・・!」 バッシャ!ザブザブ・・・ 緑が生茂る深い山の中、左肩から血を流した男が息を切らせながら、上流からサラサラと流れる清流に勢い良く飛び込み、対岸に向けて必死に走っていく。何かから逃げる様に、まるで命を狙われた獲物の様に死に物狂いで対岸を目指す。 「やった・・!ハァ・・あと少し・・逃げれる・・!」 男は歓喜した。後ほんの数歩で対岸に着く。逃げ延びれたと。自分の命を付け狙う悪魔から逃げれたのだと、心底安堵した。『安堵してしまった。』 「・・・・」 男が逃げていく中、彼が渡った後の森から『ソレ』は現れた。彼にとっての悪魔。命を付け狙う邪悪な者。呪われているかの様な、何者にも染まらない『白』を連想させる白い髪を無造作に流した若い青年がゆっくりと、右手に持つ漆黒に鈍く輝く狙撃銃の銃口を逃げていく男に向ける。 青年は銃口を男に向け、空いている左手を狙撃銃のハンドガードに添え、優しく握り込む。握り込んだ手を離さぬ様に力を込め、艶消しのニスが塗られた美しい木製ストックを右肩に宛がい、右手を一度グリップ、指をトリガーから離して薬室に弾を送り込むべく狙撃銃の右側より出ているボルトを引き込む。 ガチン! 力強く引かれたボルトは薬室内に弾丸を送り込み、狙撃銃は命の息吹を開始する。 「あばよ」 青年は静かに、此方に気づかずにもう逃げ切れたと思っている男に告げ、ボルトを素早くリリースしてグリップを握りトリガーに指をかける。アイアンサイト上に重なった男の頭に向け、そのまま人差し指を引き、青年は躊躇いなく発砲した。 ダァォォォォン!!!! 辺りを揺るがす獣の咆哮の様な強烈な炸裂音が青年の周辺に木霊する。弾丸によって頭を満杯にまで水を入れて、割れるまで更に水を入れた水風船の様に弾け飛んだ男の死に様を確認して青年はボルトをもう一度引き、空薬莢を薬室から排莢し、忌々しげに呟く。 「地獄で懺悔しな。糞魔術師」
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