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ガハハと豪快に笑い飛ばす蝦蟇のオヤジの顔を眺めていてこいつとは多少は気が合いそうだなと思った。
「そうかよ、んじゃ・・・これからもたまには来るだろうから査定頼むぜ?おっさん・・・つうかソイツの物捌いておっさんは無事なのかよ?」
「なに、この裏路地界隈で物盗られたりするのはそいつが悪い。注意不足って奴だな。ここではそれが暗黙のルール、だから俺っちがあいつのもん捌こうが盗られたソイツが悪い。何せドジッたのは盗まれた奴だからな」
湧き上がった疑念を訪ねるとフンと鼻息荒くしたり顔で笑う蝦蟇のオヤジは意気揚々と言い放った。どうやら、相当ソイツに苦汁を舐めさせられていたらしい。
振り返らずにゆっくりと手に入れた金をボロ切れ同然のズボンのポケットにねじ込み最早喋ることもないので、食料を買い漁るべく裏路地から表通りへと出る路地に足を進ませる。
「おい、ガキ、おめぇさん名は?」
ふと、蝦蟇のオヤジに呼び止められ振り返る。一度は死に、失ったこの命・・・今はただ生き延びる為だけにこうして行動しているが、名前か・・・。生きる事にのみ集中していて名前の事など考えていなかったな。
(・・・この世界に俺の『過去』を知る人物は誰一人としていない・・・ならば、今までの名も経歴も全て捨てよう)
そう、今まで培った経歴、名は捨てよう。この名をこの蝦蟇のオヤジに告げる、それが本当の意味でこの世界での俺にとって【ゼロ】からのスタートの第一歩になるであろう。
ーーーー俺はオヤジの顔を見据えて、自分自身に相応しい名をゆっくりと相手の心に刻みつけるように答えた。
「ーーーーソイル・・・ソイル・ストレイドだ」
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