初春大月(ハツハル ノ オオツキ)

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「驚かせて済まない。道に迷ってしまって」  レオルが言えば、女が顔をしかめる。 「迷ったなんて嘘だろ。焦りがみえねぇ」 「本当だって」  男とレオルがやりとりをしている間、女はゆっくりと後退り始めた。  気付いていたがあえて何も言わずにいたが、眼前の男の顔色が変わった。 「ランコ! 臥せろ!」  後ろを振り返り、叫ぶ。  それと同時に、レオルの耳に風を切る音。 「あっ」  女の足を矢が掠め、ど、と体が地に倒れた。  レオルが、自身の後方を見る。  第二射目を構えたアスが目につく。 「あの馬鹿」  歯噛みしていると、澄んだ笛の音が響き渡った。  気配が増える。 「御頭!」 「ランコをうちの奴んとこ連れてって手当てしてやれ。残りは、仇討ちだ」  応、と応える声は優に二十を越えている。  ダムとカーリズと自分で、無傷とは行かないだろうが、倒せない数ではない。  しかし、抜刀もしていない、しかも女に怪我を負わせたこちら側の行為は、卑怯以外のなにものでもないだろう。 「御頭! ランコの様子が変だ!」  思案中の頭に、悲鳴に近い声が届いた。  見遣れば、ガクガクと体を震わせている。
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