初春大月(ハツハル ノ オオツキ)

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「毒矢か。誰か水持って来い! あと毒消しの薬草もだ! 縄! ベルトでもいい、出せ!」  リーダーらしい男の指示が飛ぶ。  渡された縄で、傷に近い場所を縛り、傷口を水で洗い流しはじめた。 「薬草は!」 「この辺にはもう生えてねえ。この前のガキ達の時に取り尽くした」 「クソッ」  盗賊達の行動を見守っていたレオルは、自身の手荷物から薬を取り出した。 「使ってくれ。その矢の毒には、これしか効かない」  差し出したそれを、相手はなかなか受け取ろうとしない。 「その娘を死なせないのか!」  レオルが声を張り上げれば、男は歯噛みをしてレオルの手から薬を奪い取った。  なんの躊躇いもなく薬と水を口に含み、それを女に口移しで流し込む。  体の妙な震えも治まり、呼吸も穏やかになった。  その場の全員から、安堵の溜息が漏れる、 「ランコ」 「キィリィ、水、もう少し」 「ゆっくり飲むんだぞ」  水筒を傾け、女の口元に近づける。  女はこくり、こくり、と水を飲み、噎せた。 「ランコ!」 「だい、じょぶ。ちょっと噎せただけ」  抱き上げ、背を摩る男に、女は軽く咳こんだあと、はにかむ。 「ごめん、心配かけて」 「謝らなくていい。ランコは何も悪くない」 「そうだぞ。ランコは悪くねぇ。悪いのはあいつらだろう」  回復したらしい女を含めた視線が、大人しく見守っていたレオルに注がれた。
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