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牧場を出発した車は、空を染め上げる朝焼けのなかを疾走する。
山本牧場沿いに延びるこの道に沿った一帯は全て牧場で、
あっちを見れば牧場、こっちを見れば馬、延々と放牧地で、緑色の風景が続いている。
相変わらずというか、兼続はFMラジオをききながら黙々と運転を続ける。
「………」
言うまでもなく、というべきか、
兼続は無口である。
「………」
―――ダメだ、この空気に耐えられない。
――いつものことであるのに、今日は何故かそんなことを思った。
「・・・あのさぁ、親父」
「なんだ?」
相変わらず兼続は前を見据えたまま。
「いや、どっか連れてってくれるのは嬉しいんだけどさ、せめて行き先くらい教えてくんない?」
「競馬場だと言ったはずだ」
ぶっきらぼうに兼続。
「だからさ、何処の競馬場だよ?ばんえい?札幌?旭川?まさか函館とか・・・」
「いいから黙ってついてこい。ついでに旭川はもうやってない」
少し怒ったように兼続が言う。
彼は旭川が大好きだった。
「・・・まあ、いいけどさ」
迫力に蹴落とされ、何も言えなくなった勘助は、弱々しくそう答えを返す。
――――親父との旅はいつもこんな感じだ。
そう勘助は思う。
とはいえ、兼続と出掛けること自体が三年ぶりではあるのだが。
会話は三分と持たない。お互いに目を会わそうとしない。
そんな風だから彼は、兼続との旅にはあまりいい思い出がない。
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