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「―――では、次のニュースです。
今年も、日本ダービーが東京競馬場で開催されました。
三年前に生まれた八千余頭の頂点に立った馬は一体どの馬だったのでしょうか!
では、レースシーンをご覧ください!」
ニュースキャスターが熱を込め、そのレースの名を告げる、
ブラウン管の向こう側。
熱戦の舞台は東京競馬場。
『先頭、ダイナナテンリュウ、ダイナナテンリュウ、
二番手外からテイエムタカノハナ、テイエムタカノハナが巨体を揺らして先頭か、二番手内食い下がるダイナナテンリュウ、しかしこの手応えは一杯か!』
傍目に見て、筋肉の塊とも言える、『それ』が18頭、蒼く繁った芝生の上を駆け抜ける様を、彼は見ていた。
………人間も、『それ』も、無垢に、ただ一心に、
その芝生の先にある、青い馬蹄型の板を目指して駆け抜けていく。
そこを一番に通過する以外、
他に求めるものはないのだと叫ぶがごとく、
その腕を、その脚を、その頭を風にして突き抜けて行く――――
しかし、その無垢さがゆえに、
それをテレビの前で見守る『彼』は、
彼らがそうにまで必死になるそのさまを、
『くだらない』
と感じていた。
―――馬を育てることになんの楽しみがあるか。
馬糞にまみれ、貧困にあえぎ、
手に入れるものがこれか。
こんなことにしか楽しみがないなら、
俺はやはりここを継がない。
と、そんなことを。
『先頭、テイエムタカノハナ!テイエムタカノハナが押しきるか、
しかし、外からベージュだ!
外からなんとベージュ!ベージュが二番手から前を捉える勢い!
残り百!
ベージュがさらに加速するーっ!止まらない!
あのハイペースのなか!どこにそんな力が残っていたのか!
夢か現実か悪夢か!
我々の視界を赤く染あげる!
ベージュ今一着ゴールイン!
』
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