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6月、上旬のある日。
北海道という広大な土地の、これはまたある一点。
山本牧場の牧場主、兼継のひとり息子
――山本勘助はテーブルに座り
無為にテレビを見ていた。
興味のない競馬。半ば彼の父に強制的に見せられた、それを。
「おら、勘助、出掛けるぞ」
映像も途中だというのに、
勘助の父―――兼続は
その低く響き渡るような声で、玄関から彼を呼んだ。
とても胃に疾患を持った、病人であるとは思えないほどの大きな声で。
「あ、了解」
特に興味もない『それ』を捨て措いた勘助は、
席を立つ前にテレビを消し、
その足で玄関へと向かった
彼がその歩みを進める度、
古びた廊下がいつも通りに軋む。
築50年以上―――改築の必要性があると何度も彼が父兼続に進言してきた廊下。
悲鳴のようにも聞こえるその音を耳にし、今日もため息をつく。
………そうこう歩くと、靴の散乱した下駄箱が見えてくる。
えーと、スニーカーはどこだ、確か三段めの右端の・・・
「靴ならそこに俺が出しといた」
軽トラの窓から兼続は顔を出し、そう言った。
「ああ………ここか。」
戸を開けると、確かに靴が二足綺麗に並べられていて。
「お前も高校生になったんだから、靴の場所ぐらい把握しとかんとな」
兼続はサイドブレーキをかけながら言う。まるで、自分は何もかもができているかのように。
―――何を偉そうに。
そう、勘助は悪態をつく。
「そこに散らかってるのは全部親父の長靴だろがい。親父がしっかり直してくれ」
「・・・」
図星だったのか、兼続ははなにも言わずにエンジンをかけ、勘助を手で手席に招く。
「…………ったく。」
スニーカーを履き終わった勘助は、呼ばれるがまま、厩舎兼自宅を後にして、車へと向かった。
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