雨の季節に

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軍人達の多くはジルラッドを支持してはいるが、彼こそが王を殺したのではと言う疑惑は兵士達の間でも頻りに取り沙汰されている。 一方で、宮廷内に仕える文官や有力貴族達は皆、国家が軍国に傾く懸念が有るとしてリュゼローザを推していた。唯一、大臣だけが中立の立場で居る状態なのだ。 「まあ、本当に雨が降ってくれるなら、誰が王に為ろうと文句は無いさ」 弓兵が告げると、同僚も頷く。農民の出身である兵士達に取っては、水不足の方が深刻な問題だった。 元々、貧しい小国なのだ。幾ら優秀な王がその座に就こうと、飢饉とも為れば国民の多くが餓死してしまう。実際、彼等が生まれるより少し前にも、そうした飢饉に苦しめられた年が在ったらしい。 最後は互いに溜め息を吐いて同僚と別れると、弓兵は警邏の任務に戻る。平和な国とは言え、盗賊等の類いが何処から侵入して来るかも判らない。 気を引き締めていた処に、今度は弓兵隊の隊長が駆け付けて来た。 「マルク、セレニス公爵殿が狩りへ随従させる為の、腕利きの弓兵を御所望されているとの事だ。お前の腕ならば、きっと公爵殿の御眼鏡にも適う事だろう」 「なんと!自分の様な若輩者が、本当に宜しいのでありますか?」 笑顔で頷く隊長に、マルクと言う名の弓兵は畏まりつつ敬礼したが、内心は込み上げる歓びに満ち溢れていた。 ――巧くやれば、上に取り立てて貰える好機かもしれん……此は、まさに天の御恵みに違いない! 此の時ばかりは水不足の不安も吹き飛び、マルクは翌朝に早速、弓弦を張り替えた得物を携え、公爵家の屋敷へ意気揚々と赴いて行った。 然し、通された豪奢な内装の部屋で気後れを覚える中、公爵の口から重々しく告げられたその驚愕の内容に、弓兵は半ば浮かれ気分で此処に来た事を、後悔する羽目と為る。 老獪なる公爵が腕利きの弓兵を探していたのは、狩りに随従させる為などでは無かったが故に――。 「あの馬鹿猫が邪魔しに来たのよ!ヴァルティカの所為じゃ無いんだから!」 荒々しく水を撒き散らしながら憤慨する大樹の化身を前に、クロフェルドは自身の方にも飛んで来る水飛沫を避けつつ思案していた。 恋人の為に月を追って奔走する途中、大樹の丘に寄ってみたのだが、化身の少女は眉目を吊り上げ、見るからに御立腹の様子である。 ――人間から叡智を奪い、争いを引き起こす魔猫か……今度は何を企んでいるんだ?
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