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見通しの良い一本道を飲み水含ませぶらりぶらり。
先に行けば行くほど血の臭いは濃くなっていくが、姿は見えて来ない。
そして一際血の臭いが強い場所で足を止めるとしゃがみ込み、赤くなった土塊を見つけて舌打ち一つ。
(既に持ち去られた後であったか)
ジュウベエは何者かが狩った獲物を持ち去った後だと考え、その場を後にする。
勿論ジュウベエはその獲物とやらは何かしらの動物だと考えているが、こんな場所においそれと出てくる頭の悪い動物など人間以外はそうそう居らず、少し知識のある旅人ならば野盗か野伏せりかと背筋を凍らせ来た道を引き返しただろう。
しかしこの男、人間の姿など自分以外は師しか知らず。
他に人間が居るということは知っていてもどんなものかは何も知らなかった。
もしもジュウべエ知識を持っていたとしても無様に逃げ帰ることは無かっただろう。
それは今から分かる事であるが、師に故郷に別れを告げてきたジュウべエに帰る場所など無く、右と決めたからには右に真っ直ぐ進む事しか知らないのである。
(いったい何が何を捕ったのであろうか……)
呑気にジュウべエ想像巡らせ狩るものと狩られるものを想像する。
そして鼠に兎に狼に熊と様々な動物思い浮かべてぶらりぶらり。
(む……?)
獣染みた目が遥か先に居る何者かを捉えて鋭く尖っていく。
最初は何の動物かと足早にそれ目掛けて駆け寄っていたジュウべエだったが、それが自分と同じ人間の集団であると分かり速度を落として眼光を更に鋭くさせる。
キドウマルしか人間を知らないジュウべエにとって人間とは強い動物であると思い込んでいる。
今回も例には漏れず、息を殺してこそりこそりと道の横の背丈の低い草の中を長身屈めて進んで行く。
そしてその人間の集団のすぐ側までたどり着いたジュウべエは草と草とを指で微かに掻き分け、その隙間から様子を窺った。
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