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「な、なんだぁてめぇは!?」
「ジュウべエだ」
「そういうことじゃない」と男達は言いたかっただろうが、どうにもこうにも腰が引けて思うように言葉が出てこないでいた。
それもそのはず、無抵抗の女を追って楽しんでいたらその後ろの四十ばかしの草むらから百九十はあるのではという人間が現れれば、「まさか巨人かはたまた天狗か」と浮足立つのも仕方ない。
そんな男達とは対称的に悲鳴をあげた女は恐怖で染まっていた顔をキラキラと輝かせてジュウべエを見つめていた。
この女、最初見た時はそのみすぼらしい格好から野盗の仲間かと思っていたのだが、野盗達の言葉を聞いて勝手に自分を助けにきてくれたのだと脳内変換してしまったのであった。
勿論ジュウべエそんな気はさらさら無く、目の前で勝手に狼狽えている男達を見てフンッと小さく鼻を鳴らす。
その姿がまるで追い詰められて怯える弱い小動物と重なったジュウべエには最早恐怖心など欠片も無かった。
「お、俺達の邪魔をしようってのか?」
「三対一だ、勝てるはずがねぇ」
「そ、そうだ三対一だ、とっととこの男を殺して女を頂いちまおう」
男達も何をとち狂ったのか知らないが、ジュウべエの目の前で「殺す」などとほざいてしまった。
「俺達はやるぞぉ!」という意味でそれが相手を少しでも動揺させる策だったとしても、相手が悪かった。
勝手に勘違いして勝手に始末を決めた男達。
もしも男達の誰かが丁寧に「仕事の邪魔なので」と言って追い払えば、既に興味の失せたジュウべエ「相分かった」と女見捨ててスタコラサッサと先を急いでいたかもしれない。
だがそれをせず、既にジュウべエに対する殺害予告を突き付けた男達がジュウべエを再び見た時には、既にジュウベエ腰に差したヨシツナを抜いて立っていた。
「ひいっ!」
それ見て動揺した男達、反射的に手に持つ短刀をジュウべエに向け、それ見たジュウべエ走り出す。
大股一歩で距離を詰め、間合いを感じ取り一閃二閃。
瞬く間に腹を裂かれて崩れ落ちようとしている男達の内の二人。
残りの一人に戦意は欠片も残っていなかったが、武器を構えている相手をジュウべエが見逃すはずも無く、戻しざまに首を飛ばしてヨシツナを鞘へと納める。
そして崩れ落ちる三つの骸。
哀れ、ジュウべエの人斬り最初の犠牲者となった男達であった。
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