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それからというものミーシャは色々な質問をぶつけていく。
商人ということもあり慣れもきたのか、最初の初々しさなどどこえやら根掘り葉掘りといった具合。
しかしジュウベエ簡単な返事をするだけでまともに質問に答えない。
今まであまり聞くことはあっても聞かれることは無かったジュウべエ、何と答えてよいのか皆目見当がつかない。
一応答えてはいるのだが、「山の中に居た」やら「剣を振っていた」やらかなり抽象的なことしか言えないのである。
これを聞いたミーシャ、何やらジュウべエには秘密があるのかとピピピーンときたといった様子で対抗心を燃やしていたが、全くの勘違いである。
そんな噛み合わない二人はそれから特に進展することもなく、いつの間にやら目的地であるトロロ村の前へとたどり着いてしまっていた。
(人が……人が大勢ではないか)
簡単な柵に囲われただけの村の中を覗き込んだジュウべエ、余りの人の多さに内心ギョッとしていた。
とはいえ見えた人数はせいぜい十数人で村の規模が大きい訳でもない。
今まで人と接してこなかったジュウべエの感覚が異常なだけであり、この男が街に出た日には泡を吹いて倒れてしまうかもしれない。
「こ、ここは何という場所だ?」
「ここですか?ここはトロロ村っていうんです。私はここで呉服店を営んでいるんですよ!」
二度目のチャンスを逃すものかとミーシャ大きく胸を張ってアピールするが見事に空振り。
驚きで固まっているジュウべエの横で心なしかシュンと項垂れてしまっていた。
「……それじゃあお礼もしたいので着いてきてください」
「あ、あぁ分かった」
自分の店へと歩き始めたミーシャの後ろをあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロと落ち着き無い様子でジュウべエが着いていく。
まるで初めて来た都会に目を奪われた田舎の子供のようである。
こんなジュウべエの姿は師であるキドウマルすら見たことが無いものである。
そういう意味ではこの女、かなり珍しくものを見ている事になるが、当人は殆ど気にしていない。
なんと勿体ないことか、こんなジュウべエ二度と見れぬかもしれないというのに。
その通りにジュウべエ襟首正して直ぐにいつもの仏頂面に戻ってしまった。
いやはや惜しい事をしたものである。
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