三 小さな覚悟

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「ここが私のお店です」  そうこうしている内にジュウべエは目の前の建物を全身を使いながらアピールしているミーシャを見て立ち止まる。  大きさは極々普通の民家と同じ位であろうか。  軒先に豊富とは言えずとも種類は幾つかある呉服が並んでいるだけで、お世辞にも繁盛しているとは言い難いものであった。  しかし侮るなかれ、先程も言ったが女の身でこの世界では趣味の面が強く需要もそれ程多いとは言えない呉服を売り、店を小さいながらも存続させているのはやはり才能と言うほか無いものなのである。 (師の着ていた服に似ている)  並べられた呉服を見たジュウべエ、顎に手を当て首を捻る。  この男、無知で無神経な所が多々あるが、別に周りに目が配られていない訳ではない。  むしろ自分の腕を証明するための好敵手を捜してあっちをギラギラこっちをギラギラと周りを観察していたのである。  その間に師や自分が着ているような服が主流と言うわけではない事に気付いていた。  呉服店の店長ということもあり呉服を着ていたミーシャを最初に見ていたジュウべエは少なからず驚いたものであったが、そんな事を気にする質では無かった。 「それじゃあ御礼の品を取ってきますね。えーと……食料に水でしたっけ?」 「あぁ頼む」  ジュウべエの短い返答を聞いたミーシャは慣れた様子でお辞儀をすると、店の奥へと消えていく。  そして一人取り残されたジュウべエ。  だがジュウべエ、目の前に飾られている服を眺めながら全く違う事に意識を向けていた。 (……見られている)  何者かからの視線。  時折通る村人達の奇異な者を見る視線ではなく、その中に巧妙に隠れるようにして自分へと向けられる視線。  世に言う達人という者達は『気配』というものを感じ取る事が出来るという。  そしてこの男、気配を消す事は先程実践した通りであったが、気配を感じると事もお茶の子さいさい屁の河童であった。  そしてジュウべエが既に気付いているとは露にも思っていない一つの影が小走りで近付いてくる。  そのままその影はジュウべエにぶつかるように身体を寄せた瞬間、前を向いたままのジュウべエに手首を握られ、そのまま捻られながら宙に高々と持ち上げられた。
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