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それではキドウマルの話は終わりにして我等が主人公ジュウベエの話へと移るとしよう。
この男、師であるキドウマルしか今まで人間は見かけておらず、そのせいか師に対しては目を見張る忠犬振りを発揮していた。
三歳の時に木刀で頭をタンコブだらけにされれば、「やりやがったな糞爺」とばかりに恨みを持つのが普通だろう。
しかしこの男変わり者で、「もっと剣を教えて下さい」とわざわざ頭を下げて懇願した。
これにはキドウマルも驚き、根性を確かめて自分が得するようなお題を与えたのだが……
その日から寺内壊して回っていた悪童ジュウベエ心を入れ替え、掃除に洗濯家事親爺とすこぶる働いた。
「千の道も一歩から」と言われ、身体を作るためだと言い付けられた寺での仕事も、剣が習えるのならと苦には感じていなかった。
それにまたもや驚いたのはキドウマルで、自分が楽する為に言い付けた仕事を十割以上頑張るジュウベエの熱意に負けて剣の指南を開始した。
それからというもの悪童ジュウベエは才能開花と言うべき速さで実力を伸ばし、修業の名目で猪だろうが熊だろうが一太刀の元に斬って捨てていた。
しかし目標である師キドウマル、幼子の時には剣を知れば追いつけると思っていた実力も、自分の実力が育てば育つ程遥か格上雲の上の実力を持っていると分かったのだ。
そこで挫折を味わうが、「知ったこっちゃねぇ」と直ぐに立ち上がり剣を振るった。
ジュウベエの実力は世に幅利かせる普通の剣士とは一線を画するものであったが、幸か不幸か剣士の姿は師であるキドウマルの他に知らず。
一太刀も浴びせられず叩き伏せられる自分がただ弱いのだとがむしゃらに稽古し、遂に雲のような存在であった師に剣を浴びせた。
その年月十八年、他の事は何も知らず剣の道だけを極ませ続けたとしても長い年月であった。
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