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(とはいえこれからどうするか……)
流れに任せて別れてしまったジュウべエだったが、持っているのは二本の剣に少量の水と食料のみ。
今まで山を下ることはあっても下りきる事は無かったために外の事は何も知らない。
(人がどこかに居れば良いが……)
とはいえこの男ジュウベエ、ただ考えてみただけで特に不安といった不安は抱いていなかった。
修業という名目で山の中を一ヶ月間ヨシツナ一本で生き抜いたこともあるこの男。
食料が無くなればそこらに居る動物斬って食らえば良いと安楽的な考えを持っていた。
当たり前ではあるがこんな未開に近い山奥ならいざ知らず、人が行き来する天下の往来を野生動物が我が物顔で歩いているはずもなく最初から計画は破綻しているのだが、ジュウべエは知るよしも無い。
はてさてジュウべエ、先行く危機感なんのその持ち出した握り飯を頬張りながら飲み水片手にぶらりぶらり。
舗装された道など無く続くは草生い茂る獣道だが、今までここで暮らして鍛えた足腰には少しも堪えずスラスラと山を下って行く。
それに加えてこの男、持ち得た五感は野生動物さながらであり、見て臭いを嗅いで音を聞いて危険一杯の道を特に何事も無く下り終えてしまった。
「……ふむ」
山を出たはいいが、どちらに行けばよいのか皆目見当がついていない。
目の前には点々と小さな小屋の様な家が建つ草木も疎らな平原が広がり、自分の足元には左右に一本ずつ道が敷かれている。
どちらに行けば何があるのかなど分かるはずも無いジュウべエだったが、獣並の嗅覚が微かに右の道から血の臭いを嗅ぎ付ける。
「こっちだな」
ジュウベエは嗅ぎ付けた血の臭いを頼りに右の道へと身体を向けて歩きだす。
普通の者ならば危険は御免と血の臭いが漂う道を行こうとは思わないだろうが、この男は師以外の動物はバッサバッサと斬り捨てて生きてきたのであり、多少の血に恐怖するどころか食料目掛けて突き進むのだ。
とはいえこの世界、タダで街中行き来できる程気前の良い世界では無く、慣れ親しみのないただの旅人は金が無ければ街に入る事も出来ないのだ。
勿論ジュウべエ文無しである。
左に行けば街があるが、入れないと突っぱねられれば悪童ジュウべエはどんな行動をするのであろうか?
運よく(?)右に進路を決めたジュウべエ、運命とは面白いものである。
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