救いの手

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 警告を無視して扉の先へ出ると、入れ違いに四月の生暖かい風が体を抜ける。彼はそれすらも不快に感じ、ずかずかと屋上の端っこへと向かった。 「これですべて終わりか」  ぼそりと口からこぼし、背中のリュックサック兼学生鞄を地面に放り投げる。  柵の形は金網ではなく支えが縦にあるタイプ。足を引っ掻ける所は低いが高さは彼の胸あたりしか無く、勢いをつければ簡単に乗り越えれることができる。  ここは休憩時間に開放されていて、来る度に危険と感じていたが今は安堵すら思える。 「おぉ……」  柵を支えに景色を改めて一望する。目の前に広がる青空には入学式にふさわしい青が広がり、今日という晴れ舞台を彩っている。  グラウンドには朝練習だろうか、運動部が外周をランニングしているのが見えた。  ここの高さは校舎の4階と、屋上の1階分を足して5階。覚悟していた事とはいえ、やはりそこは人間。これから自分を殺そうとすると抵抗がある。  しかし、死の一瞬とこの辛い日々を天秤にかければ死の方がものすごく軽いと思った。  数回顔を振って躊躇いを貫き、ぐっと冷たい金属の柵に力を入れる。そして足をバネの要領で一気に跳躍させた。
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