救いの手

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「ダメー!」  誰かの声が聞こえた気がする。その直後、柵から引き剥がされるように横へ押し倒された。 「ダメだよ! 自殺なんてしたら」  寝転がされた自分の目の前には少女が息を切らしていた。  少し幼さを残す顔つき、地の深い藍髪に赤い色が映える二本のヘアピン。自分を威嚇するかのごとく見据える漆黒の瞳。  面識は一切ない。記憶の隅にも引っかからない。ただ分かるのはここの中学の制服を着ていて胸のタイが自分と同じ緑なので、二年生だということだ。 「……君には関係ないだろ!」  痛みなど忘れた体を一転させ再び柵に手を伸ばす。しかし、彼女がその間に体を割り込ませる。 「そんなことしたら何もかも終わってしまうよ!?」 「あんたになにがわかるんだよ!」 「何も知らないし、何もわからない。けど自殺は絶対ダメだよ!」  ぶんぶん首を振って少年に訴えている。 「そんなことで……」 「私はあなたが必要だから。お願い!」 「っ……!」  少年は息を飲んだ。  この場を和ませるために言ったのか、表面上だけで実は嘘なのか、はたまたただ偶然でたのかは分からない。  だけど彼女の必死なその言葉はとても嬉しかった。木霊するよう響き渡った。今すぐここから救って欲しかった。
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