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「そろそろ行きましょ」
まだまだ時間はあるっていうのに、急に奏江がそう言い出した。
「ん? もう帰るのか?」
「違うわ。今晩の買い出しよ」
俺は耳を疑った。
奏江が休みだった昨日のうちに買い物は済ませておくよう言っておいたはずだ。
ふたりとも出勤ならしょうがないが、これでは余計な苦労を背負い込むことになる。
「なんで昨日のうちに行っておかなかったんだよ!」
……ひどい男だと思ってるだろ。いや、言いたいことはよく分かる。
だが結局、俺の体質を甘く見ている。
俺が持つ荷物の重量と大きさに比例して、雨の量と風の勢いは増えまくる。
奏江だってそれはよく分かってるのだから、わざわざ馬鹿な真似をする必要はないはずだ。
「……」
少しばかり声を荒げた俺を奏江は不機嫌そうな表情で見つめる。
「……そんなこと言うんだ、陽司さん。私の弱みにつけこんだくせに……」
ぐ……。なんでそこでそれを持ち出す? 勝てないまでも一言反撃すべく、俺が口を開こうとしたが、その前に奏江の唇が再び言葉を紡ぎ出す。
「……私はただ、陽司さんと一緒なら、雨の中の買い物も楽しいかなって思っただけなのに……」
「う……あ……スマン……」
男は馬鹿だ……。8割方、俺の反論を封じるための台詞なのは分かっているのに、それでも嬉しく思ってしまう……。
なんか一生こいつには勝てる気がしない……。
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