如月陽司

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 ようやく奏江のアパートに着いたときには、ふたりともずぶ濡れだった。 「凄かったわね。あのときと同じね」  タオルで髪を拭きながら、何故か嬉しそうな奏江。  使ってるタオルは玄関の脇の戸棚に常に入れてある。  俺が拝借してるのももちろん同じ。  玄関をすぐ上がったところには厚目のバスマットが敷いてある。  対策は完璧というわけだ。  だが、だからこそ気になった。 「なあ、何で髪切らないんだ? 雨風の中だと邪魔になるだろ?」  暗に“俺のせいで”との意味を込めてみる。  だが、髪を拭く手を止めた奏江の顔には“?マーク”が書いてあった。 「何言ってるの? 陽司さんが言ってたのよ。『長い黒髪が好きだ』って」  ……確かに俺の好みはその通り。だからといってそれを押しつけるつもりはないし、そもそも……、 「俺……、お前にそんなこと話した覚えないけどな」 「3年前の忘年会で言ってたじゃない」  ……それはあれか。  キャパ以上に酒飲まされて、先輩に絡まれてた年か。  だが、正直覚えていない……。
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