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母さんは女優だった。
父さんが言うには、役作りを欠かさない人だった。
母さんは皆が認める演技派女優で、役にはまり込むタイプだった。問題は、一度役にはまり込んでしまうと、なかなか現実に戻ってこないタイプだったってことだ。
僕はまだ生まれていなかったからよく知らないけど、母さんは映画で共演した恋人役の俳優を本当に好きになってしまうことが多かったらしい。
映画のたびに共演相手とスキャンダルになっていたとか。
そんな母さんが映画監督だった父さんと結婚して、僕と弟が生まれてからは、スキャンダルもなかった。
でも、だんだんと母さんの演技が評価されないことが多くなったらしい。
それからしばらくして、母さんが共演者の俳優と不倫。それが父さんにばれて、2人は離婚した。
しかも、父さんはそれがきっかけで映画監督をやめてしまった。
僕は父さんに映画監督を続けて欲しかったからショックだった。
裏切られたような気分だった。
でも、今思えば、仕事時間が不規則で家に帰れない日が続くこともある映画監督のままだと、僕たちを育てられないと思ったんだろう。
『距離を置くと、ものがよく見える。
ライカ犬はきっとものがよく見えただろう。
地球から遠く離れた宇宙へ旅に行ったのだから』
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