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でも、今となっては、そんなことを得意げに言っていた小学生の僕を張り倒したい。
今だって、非現実に触れたいと思っている。
映画が僕に与えてくれるような、あの非現実に。
非現実に触れることが出来れば、映画を知ることが出来ると思っていた。
だからこの学院に入った。
入学して1年経って気付いたこと。
非現実に触れた途端に、それは非現実的な現実になってしまう。
映画『クロウ』の主人公は死から甦り、不死身となった。主人公の役を演じた俳優は、この映画のせいで亡くなってしまった。
まず有り得ないけど、僕が空砲だと思って撃った89式小銃に弾が入っていたら? そして、それが誰かの体を撃ち抜いたら?
それが、現実だ。
「眞柴?」
黙ってしまった僕を、長太郎が心配そうに覗き込んだ。
うーん、この話はもうやめとこう。何とかこの場を誤魔化せないかな。
「あとさ、」
と僕は長太郎のヘアバンドを掴む。
「お前の髪の毛、長いから浴槽だの排水溝だのにはりついてて、女の幽霊がいるって噂になってるぞ」
そう言ってヘアバンドを離したら、長太郎の髪の毛がぐしゃぐしゃになった上に、黒縁眼鏡がずり落ちた。
「やりやがったな~」
髪の毛と眼鏡を整えながら長太郎が恨みがましげに僕を見る。
上手い具合に誤魔化せたらしい。
うん。コイツが単細胞で良かったなァ。
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