The changing world

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* 長太郎と出会ったのは去年の今頃。 桜が散り、青空の下、緑葉が陽光に照らし出され始めた頃。 僕は寮の屋上でぼんやりと空を眺めていた。 屋上に出るまでには「立ち入り禁止」の看板が行く手を阻んでいたけれど、たいして気にもしなかった。 危ないことをしなければ問題ないんだろ、とか、規則は破るためにあるんだ、とか思っていたから。 『思いあがりは若者の特権だ』、だ。 屋上に出て寝転んで空を見上げていたら、魔が差した。 よく映画に出てくるシーン。 追い込まれた者や自殺志願者などがビルから飛び降りる前に、両手を鳥のように広げる、あのポーズ。 どんな感じがするのだろうと、ふいに、やってみたくなった。 屋上のフェンスから縁までは3歩程のスペースがあって、フェンスの側にいれば落ちる危険はなさそうだった。 落ちる危険があれば、僕はあんなことをしなかった。別に自殺したかったわけじゃないから。 誰かに見つかると面倒なので、宿舎の裏側に移動した。 下は駐車場。視線を上げればビニールハウスと畑の向こうに民家が見える。 慎重にフェンスをよじ登って、越える。3階建宿舎の屋上は当たり前だが高い。 フェンスにもたれかかって両手を鳥の羽ばたきのように上げる。 目を閉じる。 風が吹く。 いつか観た映画のシーンが思い浮かぶ。 全てを諦めたような顔で、でも穏やかに、彼は落ちていく……。 「馬鹿な真似はやめろ!」
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